吉村芳生の最大の魅力は、なんといっても、その偏執狂的とでも呼びたくなるような細密描写でしょう。丹念に、そしてしつこく積み重ねられた鉛筆の微細な一筆一筆の集積が、吉村独自の、写真と見まがうばかりのイメージをつくり出しているのです。実際に作品を目の前にしないとなかなかわからない、吉村の細密描写を、作品の拡大画像によってお楽しみ下さい。

《新聞と自画像 2010.6.14》
 2010 鉛筆、色鉛筆、墨・紙 147×109cm 作家蔵

2009年、吉村はほぼ30年ぶりに新聞の作品に取り組みました。そのひとつは、新聞紙の一面に自画像を描いた作品。1月1日から毎日欠かすことなく近所のコンビニエンス・ストアで朝刊をチェック。その日一番おもしろいと思った新聞の一面に自画像を描いたものです(1月2日は、朝刊も夕刊も発行されないため、全体は364点で構成される)。タイトルは、《新聞と自画像 2009年》。もう一つが、新聞の一面そのものをもそっくりそのまますべてうつしたその上に、さらに自画像を描いた作品(全9点)。
ここでは、その後者のうちの1点、展覧会ポスターにもなっている、《新聞と自画像 2010.6.14》を紹介いたします。じっくり見ると、文字が手描きであることがわかってきます。

《新聞と自画像 2010.6.14》

《A STREET SCENE No.13》
 1978 シルクスクリーン 作家蔵

吉村が20代後半に住んでいた東京都国立市近辺の道路の光景。紗のかかったような、くすんだ光景に見えますが、作品に近寄って細部を詳細に見ていると、画面全体が、細かいマス目で構成され、その各々に、細かい斜線が引かれていることが分かります。例えば、空のように明るい部分のマス目には一本の斜線、暗くなるにしたがって数本の斜線が引かれるという具合に。

〈新聞〉と〈自画像〉をモチーフとしたシリーズ

《彼の地》
 1986 鉛筆・紙 112×152cm 作家蔵

足下を写真に撮ってプリントした後、全体を小さなマス目に区切って、その一マス一マスを克明にうつしとった鉛筆画。明暗対比のきめ細かい描写だけでなく、微妙な質感までもが忠実に再現され、一瞬見ただけではモノクロームの写真にしか見えない。

〈新聞〉と〈自画像〉をモチーフとしたシリーズ