展覧会紹介

 山口県立美術館では山口を制作の拠点とする田中米吉 (1925- )の個展「田中米吉“ドッキング” からの視線」展を開催いたします。

 田中米吉は、山口県山口市大内御堀(現山口市宮島町)に生まれ、家業を継ぎながら山口で作品制作を続けてきました。幼い頃から美術好きだった田中は旧制山口県立山口中学校、宇部工業専門学校機械科へと進学。教鞭をとりながら作品制作を行いますが美術家になる夢を実現するため仕事を辞め、東京へと移りました。そこで点字と出会い、作品制作の転機を迎えます。1965 年、家業を継ぐために山口へと戻り、それ以降は山口を拠点に作品発表を行ってきました。1968 年にロンドンで開催された日本の現代美術を紹介する展覧会では代表作家の1人として選ばれる他、山口県芸術文化振興奨励賞(1971)、山口県選奨芸術部門受賞(1982)、第 11 回現代日本彫刻展(1985 山口県宇部市)での大賞受賞、地域文化功労者文部科学大臣表彰(2004)などの受賞を重ねます。

 40年来の作品制作の背景に流れるのは “ドッキング” という考えです。ある局面とある局面とが “ドッキング” して(結びついて)そこに生まれる空間が作品です。科学技術の機能的な側面と人間の関係、作品と空間の関係、ものの表と裏など、様々なものが “ドッキング” します。彼の作品は重いはずの鉄の作品が動く、立体のはずのものが立体に見えないなど、不思議な作品が多く、実際に作品のまわりを歩き回りながら見る、覗き込むなど、積極的に鑑賞者が関わることで驚きが生まれる、楽しいものです。

 本展覧会では新作を中心に、1960 年代から現在までの田中米吉の作品約 40点を展示します。田中米吉の世界をどうぞお楽しみください。

Universality(自己・非自己)No.820-2006(2006年)撮影:栗林和彦
Universality(自己・非自己)
No.820-2006(2006年)
撮影:栗林和彦