山口県立美術館

 

展示の見どころ

ソシエテ・ヌーヴェルの画家たちの多くは、若い頃に印象派の影響を受けています。そして、例えば点描といった印象派の描法を取り入れながら、それぞれ独自の表現を追究していきました。印象派を直接受け継いだ「最後の印象派」とも言うべき彼らの作品から、今回の展示の見どころをご紹介します。

魅惑の光

印象派といえばやはり光の表現です。彼らの影響を受けたソシエテ・ヌーヴェルの画家たちの作品にも、同様のこだわりがみられます。例えばエルネスト・ローランの《麦わら帽子》。麦わら帽子をとおしてぼんやりと女性の顔を照らす光と、下からくっきりと顎を照らす地面からの照り返しの光が丁寧に描かれています。またエミール・クラウスの《リス川の夕陽》では、夕陽の光が木々をとおして放射状に広がり、画面全体を暖かく包み込んでいくかのようです。一方、アンリ・ル・シダネルの《コンコルド広場》で描かれているのは、街灯が照らし出すパリの夜の幻想的な光景。ここでは画家は、自然の光ではなく人工的な光に着目しています。
こうした魅力的な光の表現の繊細さ、微妙さは生で見てこそ。ぜひ会場で、じっくりと味わってみてください。

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    エルネスト・ローラン《麦わら帽子》
    1910年、油彩・キャンヴァス、
    シェルブール=オクトゥヴィル、
    トマ・アンリ美術館
    © Yves Le Sidaner
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    エミール・クラウス《リス川の夕陽》
    1911年、油彩・キャンヴァス、個人蔵/協力パトリック・ドゥロン画廊
    Collection particulière - Courtesy Galerie Patrick Derom
    Photo © Galerie Patrick Derom
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    アンリ・ル・シダネル《コンコルド広場》
    1909年、油彩・キャンヴァス、トゥルコワン、ウジェーヌ・ルロワ美術館
    © Yves Le Sidaner

親しき人々

今回の展示品には、ソシエテ・ヌーヴェルの画家たちが、妻や子など自分の家族を描いたものが多くあります。彼らは画家にとって単に家族というだけではなく、エドモン・アマン=ジャンの妻タデーのように、画家の作品に登場する女性像のモデルとなるなど、ときには作品制作の上でも重要な役割を担っていました。
さて、家族を描いた作品の魅力というと、家族だからこそ見られる独特の表情や様子が描かれていることでしょう。今回アマン=ジャンが妻タデーを描いた作品が二点展示されますが、様子が異なるこの二点からは、夫である画家が目にした、タデーという女性の様々な一面がみてとれます。またシモンの《私の家族》では、妻がむずかる子をあやす様子に、一家の平穏な日常の一旦が表れています。
こうした作品からうかがえる、画家たちの私人としての姿は、彼らをちょっと身近に感じさせてくれることでしょう。

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    エドモン・アマン=ジャン《バラ色の帽子を被るタデー》
    1893年頃、油彩・キャンヴァス、個人蔵
    © Yves Le Sidaner
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    エドモン・アマン=ジャン《タデー・アマン=ジャンの肖像》
    1894年、油彩・板、個人蔵
    © Yves Le Sidaner
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    リュシアン・シモン《私の家族》
    1892年、油彩・キャンヴァス、個人蔵
    © Thibault Toulemonde

伝統の物語、新しい物語

西洋美術においては、ギリシア神話やキリスト教の聖書など、古くから描かれてきた物語が数多くあります。ソシエテ・ヌーヴェルの画家たちも、そうした物語を扱った作品を遺しました。リュシアン・シモンの《王女ナウシカ》は、ホメロスの『オデュッセイア』で語られる、英雄オデュッセウスと王女ナウシカの出会いの場面に基づくもので、川で洗濯に励む女性たちが描かれています。エミール=ルネ・メナールの《自然公園のなかの川の精ナイアス》では、画家はギリシア神話に登場する美しい女の姿をした川の精ナイアスを、自然公園という現実の中に登場させています。
彼らと同時代の文学に由来する作品もあり、アンリ・マルタンの《野原を行く少女》は、ロマン主義の作家アルフレッド・ド・ヴィニーの詩「牧人の家」、アンリ・ル・シダネルの《日曜日》はベルギーの詩人マックス・エルスカンの詩集『生への讃歌』からインスピレーションを得たものです。
様々な物語を、画家たちはどう理解し表現したのか。画家の独自性が表れているところをご覧ください。

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    リュシアン・シモン《王女ナウシカ》
    1916年、油彩・キャンヴァス、個人蔵
    © Alain Beulé
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    エミール=ルネ・メナール《自然公園のなかの川の精ナイアス》
    1895年、油彩・キャンヴァス、ブレスト市立美術館
    © Musée des beaux-arts de Brest métropole
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    アンリ・マルタン《野原を行く少女》
    1889年、油彩・キャンヴァス、個人蔵
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    アンリ・ル・シダネル《日曜日》
    1898年、油彩・キャンヴァス、ドゥエ、シャルトルーズ美術館
    © Douai, Musée de la Chartreuse - Photographe : Hugo Maertens