主要作品紹介

19世紀後半、いわゆるヴィクトリア朝時代の英国では、物語をベースにしたロマンティックな絵画が人気を博しました。もともとは聖書やギリシャ神話、シェイクスピアなどからとられたロマンスは、上品で洗練されています。めくるめく物語と、華やかな絵画が融合した、絢爛たる夢と幻想の世界をお楽しみください。

運命に翻弄される恋人たち

時はナポレオン戦争末期。描かれているのは、死地へ赴く兵士とその恋人の別れの瞬間です。ドアにかけた互いの手が、目を伏せて、無言のまま寄り添う二人の願いや葛藤、そして悲しみを物語っています。

ジョン・エヴァレット・ミレイ 《ブラック・ブランズウィッカーズの兵士》
1860年 油彩・カンヴァス
©Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

真夏の夜の夢

艶やかな肌も露わに横たわる女性。海沿いのテラスに腰かける白いドレスの少女。どこか倦怠感を漂わせる彼女たちは、特定の物語の主人公ではありません。ただひたすらに美を求めて描きだされた女性たち。真夏の夢のように美しく、曖昧で幻想的なイメージは、19世紀末のイギリス美術を鮮やかに彩っています。

世界で最初のナルシスト

自身に恋をする魔法をかけられた美少年、ナルキッソス。水面に映る自分の姿をうっとりと見つめています。そんな彼に切ない眼差しを向けるのは「こだま」の妖精エコー。相手の言葉を繰り返すことしかできない彼女は、愛するナルキッソスの姿をただ見守るだけ。はたして二人の恋の結末は!?

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 《エコーとナルキッソス》1903年 油彩・カンヴァス ©Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

紳士淑女の語らい

10人の男女が一人一話ずつ、10日間で100の物語を語る、ボッカッチョの物語集「デカメロン」。美しい庭に腰をおろし、話に耳を傾ける紳士淑女の姿はなんとも華やか。ところが、描かれている人物は9人しかいません。あとの一人はいったいどこに?

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 《デカメロン》 1916年 油彩・カンヴァス ©Courtesy National Museums Liverpool, Lady Lever Art Gallery

かわいい召使い

心ない恋人に従順に仕えながらも、冷酷な仕打ちを受けてばかりの乙女エレン。美しい、不安げな表情が印象的なこの場面は、彼に言いつけられるまま召使いの姿に男装し、長く美しい髪を切ろうとしている、まさにその瞬間です。英国民謡として古くから語り継がれてきたこの物語は、エレンの一途な想いによって、恋人の心が揺り動かされる幸福な結末を迎えます。

エレノア・フォーテスク=ブリックデール 《小さな召使い(乙女エレン)》1905年に最初の出品 油彩・カンヴァス ©Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery

優美なる天上のしらべ

目を閉じて、古い楽器を静かに奏でる天使。落ち着いた色彩のハーモニーと天使の優美な横顔が、夢幻的なノスタルジーを誘います。

エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ 《フラジオレットを吹く天使》1878年 水彩、グワッシュ、金彩・紙 ©Courtesy National Museums Liverpool, Walker Art Gallery